新・青空レモン ~詩平線の彼方へ~

詩を書き綴ります(旧はてなダイアリー終了にて再始動)

「アスファルトのひび割れ」

aozoraremon2013-10-05

 
この街に来る前も、来てからも
イヤホンを耳に入れながら歩いていた
 
今日は意図的に外して
街へ出た
 
いつもの定食屋で初めて食べた天津丼
その帰り道の神社
小さな祠
巣穴を出入りするアリ
虫の声
電線のカラス
風の柔らかさ
 
前に住んでいた家は
国道沿いの安アパート
夜は暴走族の爆音、昼間は貨物トラックの振動
仕事は朝から晩までデジタルな情報処理
残業と喧騒の日々だった
それでも、少し歩けば、嘘のように穏やかな
ヒルが泳ぎ、ボートのある公園や博物館
街には様々な店や人たちで溢れていた
 
今の家は、真逆で
畑や川、虫の声、人もまばらな
店も少ない静かな田舎
仕事は朝から晩まで時には深夜から朝まで、アナログな人間対応
 
どちらも経験できた
 
天命なんて
分からない
 
それでも
全ては気づきだった
気づき以外は何もなかった
でも気づけなかった
 
過ぎてしまえば
みんな思い出だけど
その時は必死だった
 
必死過ぎて
人を恨んだ
 
それでもまだ
ここにいる
 
のうのうと生きている
 
その意味
 
気づきしかない世界なのに
気づけないという選択肢すらも
選べる存在
 
いつもは使わない
手すりを触りながら
神社の階段を下りた
 
例え今は気づけなくとも
気づきによって
世界は作られているのだと
 
アスファルトのひび割れが
僕へ
教えてくれた
 
胸にこみ上げる
温かい
何か