新・青空レモン ~詩平線の彼方へ~

詩を書き綴ります(旧はてなダイアリー終了にて再始動)

ドキュメンタリー写真家 平野 禎邦さんの思い出

小学生の頃
線路を越えた向こう側の窪地に
ユニークな家が建っていた

外壁の上で睨みをきかせた
鹿(?)の頭蓋骨

側面に斜めに貼り付けられた
大きな牧草の鍬

それら2つの白いオブジェが
平屋のような黒い外壁に飾られ
独特のインパクトを放っていた

ある日
男友達の同級生、平(ひら)ちゃんに招かれ行くと
それが彼の家だった

何だかワクワクしながら入ると
細身の二枚目なお父さんが
部屋の隅っこで迎えてくれた

平日なのに何でお父さんが
いるのかなと不思議に思っていたら
新聞のカメラマンなんだと
平ちゃんが教えてくれた

それから程なくして
平ちゃんのお父さんが亡くなって
僕もお通夜へ行って
その後は疎遠となった

それから数年たった
高校生のある日
図書館に行くと
そこに平ちゃんのお父さんの写真集を発見した

平野 禎邦著「北洋―おれたちの海」

それはモノクロの写真集で
北転船の『飯炊き係』として
スケソ底曳き船にカメラを持って乗り込んで
撮影した汗の結晶と言える作品

身開きいっぱいに広がる
漁船の甲板

まるでその場にいるような
臨場感
緊張感
波しぶき
魚臭

ただただ僕は圧倒された

それは
平ちゃんのお父さんの情熱と
写真の底力に
生まれて初めて
打ちのめされた
瞬間だった